夢・憶え書き #2 「携帯電話 」

 オノレは得体の知れない老若男女と宴会をしていた。
どこに光源があるのかよくわからん薄暗い部屋だ。
なぜかションボリ座って飲んでいる人に混ざって、
オノレもションボリ、何かを待ちつつ呆けたように飲んでいる。
 携帯電話がブルブル震えた。
オノレの携帯電話は常にマナーモードである。
「モシモシ」
「………。」
「モシモシ、モシモシ!」
「………。」
 電話をかけてきた奴は不気味な沈黙をつづけ何も言わない。
オノレは電話を切った。
切って二、三秒でまたブルブル、携帯のバイブレーション。
「モシモシ」
「………。」
「モシモシ、モシモシ!」
「………。」
 オノレにはわかっているのだ。沈黙している相手が女であり、
たぶんその女の側には女の夫がいて、
見て見ぬふりをしながら陰険な半眼の鋭い目で妻の様子を監視している。
オノレは再び電話を切った。
するとまた間髪おかず携帯がブルブル・ブルブル…。
今度はさすがに出るのをためらう。
 電話の相手が女であるとオノレにはなぜかわかっている。
その顔も何となく浮かぶ。
しかし女とオノレにワケアリな難しい関係があるわけではない。
というより一度も会ったこともなければ話したこともない女だ。
しかしオノレには無言電話の主が女であるということも、
その女の顔さえもわかっている。
「得体の知れぬオンナだが、オレと会いたがっているのはまちがいない…」
 オノレにはそんな強い確信があり、
その確信と期待の強さで胸の鼓動が早鐘を打つ。
 携帯電話が震えつづける。
たまらずオノレは通話のボタンを押してしまう。
「モシモシ」
「明日の仕事、キャンセルです」
「バカヤロウッ!」
 頭にきて携帯電話を切る。間髪入れずにブルブルブルブル。
「モシモシ、モシモシ!」
「また、一つ仕事がキャンセルです」
「ウルセェッ!」
 怒鳴って切る。たちまちブルブルブルブル。
「もう一つ仕事がキャンセルです」
「余計なお世話ダッ!」
 切っても切っても携帯電話は際限なくブルブル震え、
出ては切り、出ては切り、出ては切り…。
 地獄の時が流れてオノレの目が覚めた。