夢・憶え書き #5 「膨大な財産 」

 突然、夜中に五人の刑事(デカ)が家に踏み込んできて、
頭の禿げた奴がオノレを叩き起こすと叫んだ。
「お前を逮捕する!」
 突きつけられた逮捕状を見やりながら、オノレは飛び起きた。
「わたしがナニをしたというんです?」
「お前が他人の『膨大な財産』を盗んだという、
某役者からのタレコミがあった!」
 五人の刑事は鬼のごとく目を剥いて、
部屋のアチコチをひっくり返し、
その『膨大な財産』なるものを探し始めた。
だが、お目当てのものは一向に見つからず、
禿刑事はイライラした声でオノレを威嚇した。
「キサマ、どこへ隠しやがッた!」
 オノレの脳裡に、タレコンだという、
台詞覚えの悪い某役者の顔が浮かんだ。
「アノヤロウ…。」
 オノレはにわかに込上げてくる笑いを必死に押し殺し、
禿刑事に答えた。
「『膨大な財産』はわたしの脳ミソの中にありましてね。
ちょっとお返しするのは難しい。」
「ナニィ〜?」
「でも、そのナカミを言うことはできますがね。
およそ二時間ほどかかります。」
 半信半疑の憮然とした顔で禿刑事が言った。
「言ってみろ!」
 オノレは最近ようやく憶えた芝居の台詞、
某劇作家の『膨大な財産』をダラダラ語りはじめた。
「もういいッ!」
 耐えられんという表情で禿刑事は怒鳴った。
そして他の刑事を促し、
アキラメタようにそそくさと家から出ていった。
「大根役者メッ!」という捨て台詞を一発残して…。